音楽評論家・田家秀樹

abalone2008-12-11

毎日新聞 2008年12月11日 東京夕刊
φ(◎。◎‐)フムフムフム

らっこ・ライブ・レビュー:椎名林檎 虚実皮膜の対称性

 あれだけのコンサートを一着の衣装で語ってしまうのも乱暴だろうが、彼女が着ていた白と黒のドレスが象徴的な気がした。前が白で後ろが黒。それこそが彼女が10年間表現してきた世界のように思ったのだ。

 物事の二面性。光と影、善と悪、静と動、正気と狂気、美しいものと醜いもの。音楽で言えば洋楽と邦楽、洋風と和風、英語と日本語。一見相反する二つの概念が対称性を持って共存している。2枚目のアルバム「勝訴ストリップ」で見せた対称性が彼女の10年にも貫かれているように思った。

 この日は彼女のデビュー10周年記念ライブ3日目。センターを中心に左右対称なステージセット。代表曲が、バンドとオーケストラという二つの編成で融合される。バンドのビートとオーケストラの音像、包丁を持って歌う姿から60s風ポップスター。果てはファッションショーのようなエレガントなドレスと阿波踊りの一団まで。それらが見事な統一感を醸している。

 思いがけなかったのは、10年の軌跡をつづった「椎名林檎の筋」の後、彼女の息子が影アナとなった「椎名林檎の芯」だ。生い立ちや子供のころの彼女のエピソードと映像。この日は「生誕30年」という記念祭でもあった。日常と非日常。アーティストとしての椎名林檎と生身の椎名林檎の対称性。それは虚実皮膜の妙を見るようだった。

 世の中はますます画一化してゆく。裏表のある人間は疎ましがられ一つの答えが求められてゆく。椎名林檎の10年が何者にも代え難いのは、彼女がそんな風潮にからめ捕られなかったことではないだろうか。

 世界はすべてが紙一重でつながっている。対称性の果てにあるのは、この日の曲名にもあった“玉葱(たまねぎ)”のような宇宙でもあるのかもしれない。11月30日、さいたまスーパーアリーナ。(音楽評論家・田家秀樹)

http://mainichi.jp/enta/music/news/20081211dde012070039000c.html